2月24日(水)アクロス福岡シンフォニーホールでサカリ・オラモ指揮のロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴く。このオーケストラは,ノーベル賞授賞式典における音楽を担当するオーケストラとして有名であり,それがこの団体の「ウリ」でもある。指揮者のサカリ・オラモはフィンランド出身の指揮者で,これ以前はサイモン・ラトルの後継者としてバーミンガム交響楽団の常任指揮者であった。現在,40歳半ばで,世界が注目する期待の指揮者の一人である。
曲目は,マーティンソン《オープン・マインド》,ブルッフ《ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調》(ヴァイオリン独奏諏訪内晶子),マーラー《交響曲第1番ニ長調「巨人」》。
マーティンソンは50歳代前半のスウェーデンの現代作曲家。《オープン・マインド》はオーケストラ演奏会の導入的なオープニング曲を意図して作曲したという。その言葉通り,軽快で変化に富み,オーケストラを色彩感豊かに響かせた,いわゆる現代音楽的な晦渋さとは無縁の曲。しかし安易な調性依存ではまったくなく,この作曲家が“現代音楽”の様々な書法に通じていることが如実に窺える作品。まさにロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団を特長を引き出すための音楽であったように聴いた。現代作曲家は書法習得のためのメディアが豊富で,また,時間的にも空間的にも過去のどの時代の作曲家よりも多くの音楽を知ることが出来,マーティンソンのように,機会に応じて器用に音楽を書き分ける能力を持つ者が結構いると思う。他のオーケストラもロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団を見習って現代作曲家を活用してもよいのでは。
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番ト短調は私の大好きな曲の一つである。ヴァイオリン独奏にロマン派的情緒が横溢しており,いったんはまってしまうと,その情緒から抜けられなくなる。また管弦楽の書法も斬新で,弦によるTuttiの際のうねるような16分音符音型(非和声音で装飾された分散和音)はその前の古典派にはまったく見られないもので,気持ちをいやが上にも揺さぶってくれる。それをそのようにオラモはオーケストラを鳴らしていた。諏訪内晶子の独奏ヴァイオリンは熱演・好演。端正にかつ明瞭に主題を浮かび上がらせる。ただ個人的には,ロマン派的情緒をいやらしいくらいにたっぷりと聴かせてくれてもよいように感じた。
マーラー《交響曲第1番ニ長調「巨人」》は個人的には,ちょっと期待はずれ。私の席(2階席の最終列)のせいか,第1楽章の弱音で演奏される主題断片群がよく聴き取れない。そのため時間軸上の関連秩序が希薄で音楽がバラバラに聴こえてしまった。「この曲って,こんなにつまんなかったっけ」というのが正直な感想。第3楽章のコントラバスによる主題と,オーボエによる主題の絡みも音量的なバランスの欠陥を感じてしまって,うまく連携を取って聴くことができなかった。第4楽章は北欧人の体格の成せる技か,大音量の金管楽器のTuttiは迫力満点。ただし「もっと暴れまくってくれてもよいのに」と思いながら聴いていた。