2010年5月22日(土)西南学院大学チャペルにて「宮崎由紀子ピアノリサイタル~フランス・スペインの風の中で~」を聴く。
ドビュッシー《前奏曲集第1集》《前奏曲集第2集》から12曲,デュティユー《波のまにまに》から6曲,グラナドス《ロマンティックな情景》から6曲,という非常に意図が明確なプログラム。表現者としての前向きな姿勢と活動への継続性を感じるプログラム構成である。
ドビュッシーはそれに聴きなじんだ耳からすると,全体的にやや乾いた印象を持った。ペダルも控えめな感じで,個人的にはもう少し音を豊かに響かせてもよいかなと感じた。しかし,それは聴き手の好みの問題。
デュティユーは90歳を超えてもまだ作曲活動を継続中で,数年前に日本で新曲を確か発表しているはずである。今回の演奏曲目は彼の《管弦楽のためのメタボリズム》などの現代性と比較すると,あきらかにドビュッシーやラベルのフランス近代音楽の伝統に基づいた音楽。そうしてみると,デュティユーの才能は実にたいしたもの。軽いけれど,存在感あり,聴き応えのある音楽。宮崎は旋律線を浮き彫りにし,また旋律自体を表情豊かに紡ぎだし,音楽の造形性を感じさせる演奏であった。この曲は初めて聴く曲であったが,それ以前の音楽(つまりフランス近代音楽)の語法に照らし合わせて,すんなりと理解して聴くことができた。すんなりと聴かせたのも,宮崎の演奏の巧みさによる。
圧巻はグラナドス。ピアノ1台とは思えないほど色彩感豊かな音楽世界が展開された。テンポの緩急の付け方も巧みで,それが音楽世界への聴き手の集中をかき立てた。
宮崎は北九州,福岡,大分を地盤に地道かつ着実にピアニストとして活動し,また,現代音楽の初演も多数手掛けるなど音楽文化創造面での活動もおろそかにしていない。今回のリサイタルでもしっかりとした演奏技術の持ち主であることを実証した。今後のさらなる活躍が期待できる。