2010年6月4日あいれふホールにて「高橋和彦マンドリン&夏川由紀乃ピアノ デュオリサイタル2010」を聴く。
実はインターネットでこのリサイタルの情報を見た段階で聴きに行くべきか否か,かなり迷った。
理由はプログラムの構成にある。宮城道雄の《春の海》や《城ヶ島の雨》などの日本歌曲のマンドリン編曲と,ショパンのピアノ曲が並んでいるような脈絡のないプログラム構成にきちんとした芸術的な主張を感じることが出来ず,なんとなく演奏レベルの未熟ささえ予感させたからである。
結果はよい意味で裏切られた。特に高橋のマンドリン演奏はレベルの高いものであった。中でもマンドリン独奏曲の桑原康夫《じょんがら》の演奏は,マンドリンの楽器としての表現力を十二分にアピールする優れた演奏であった。フレーズ構造も明快に表現して音楽の分節化が的確で音楽が分かりやすく聴ける。複数声部からなる部分も音楽構造がそのようであることをはっきりと示した。トレモロもスムーズで旋律線が持続を伴っていた。また,曲自体もすばらしい。津軽三味線が発想の原点なのだが,それはあくまでも発想の原点にしか過ぎず,見事にマンドリン音楽にしていた。親しみやすさの娯楽性と,高い芸術性を兼ね備えた作品であった。
他にマルチェッリ《ジプシー風奇想曲》も,マンドリンの良さを存分に出した音楽で,高橋もそれが伝わるように弾いていた。
ただ,ピアノとの合奏においては,ピアノの音量がやはり大きすぎる。これは楽器の組み合わせ上仕方がないことではあるが,今後,その点における改善を求めたい。
夏川のショパンは真摯さがつたわってくる演奏であったが,あまりにも様々なCDでの名演奏に慣れ親しんでいる耳には,そう素直には感嘆できないような状況にある。細部に工夫の跡は感じられたのだが,全体的に音楽が断片化して聴こえてしまったことが惜しい。
このデュオはやはりマンドリンを中心としたものである。今後,マンドリンの魅力をよりアピール出来るようなプログラム構成を目指すべきだ。