響ホールフェスティバル2010,野平一郎プロデュース「モーツァルトと20世紀の音楽~時空を超えて~」―プログラム1(6月26日)を聴く。
 プログラム1は「具象と抽象の狭間で」と題されたコンサートで,20世紀以降の音楽として野平一郎《弦楽四重奏曲第4番》(世界初演)とブーレーズ《フルートとピアノのためのソナチネ》(1946),それに対する古典としてモーツァルト《ピアノ四重奏曲第1番ト短調K478》,アリアとオペラから独唱と重唱という構成。具象はテキストのある音楽,抽象は器楽のみの音楽ということのようである。
 野平一郎はピアニストとしても作曲家としても活躍する。特に作曲家としては,この日の初演の《弦楽四重奏曲第4番》を聴くだけでも大変な筆力のある作曲家であることがわかる。20世紀以降の弦楽四重奏の語法をまことによく勉強し,それを的確に自身の音楽に活かしている。ウェーベルン,ベルク,バルトーク,最近のシュニトケ,リームなどの音楽断片が,野平の音楽として消化(昇華)されて聴こえてくる。耳のよい人らしく,音楽の流れに間然とするところがない。カルテット・エクセルシオの演奏も見事なものであり,聴く者の集中を途切らせることがなかった。
 演奏という点では,ブーレーズを演奏したフルートの佐久間由美子と野平との合奏も見事なものであった。20世紀の無調の音楽が,演奏さえよければ古典の音楽と同じようにたのしめることをはっきりと示してくれた。
 モーツァルトの歌曲やアリアを歌ったメゾソプラノの林美智子は,のびやかな声で,要所要所に適度な抑制を効かせ,本当に音楽をたのしませてくれた。テノールの望月哲也は歌曲の時はややその表情が硬かったがアリアや重唱に移ってからは,のびやかな声で十分に音楽をたのしませてくれた。
 「モーツァルトと20世紀の音楽~時空を超えて~」というプログラム構成にはやや疑問を感じたが,それについては後日語ることにしよう。