2010年1月21日,あいれふホールで西日本オペラ協会の「歌でめぐる世界の旅」第三夜を聴いた。前半は日本歌曲,後半はプッチーニ歌劇《蝶々夫人》抜粋の演奏会形式上演である。《蝶々夫人》の方は演奏会形式といっても,ホリゾントに映像を映したり,象徴的な演技演出を加えたり,筋書きを導入的に語ったりと,字幕を用意したりと,聴衆をオペラの世界に引っ張っていきたいという意欲に満ちた好演であった。
オペラを作曲しようとしている私にとってこの夜の収穫は久世安俊が歌った林望作詞・伊藤康英作曲《あんこまパン》の新しい日本語歌曲スタイルである。歌詞は料理のレシピ付きのエッセイである。韻を踏んだ詩のスタイルではまったくない。つまり歌うことには不向きな詩である。それを,表情的に語ることの拡張として歌のスタイルにまとめ上げていた。言葉もはっきり聞こえ,音楽的にも変化に富み,聴くものをつかんで離さなかった。このような歌のスタイルの可能性があったことに驚いた。
もちろん,私がこのように感じた裏には久世安俊の好演があった。こういうことをやらせたら,久世は実にうまい。この個性を高く評価したい。