IC2009(インターカレッジ・コンピュータ音楽コンサート)が12月4日から6日にかけて東京芸術大学千住キャンパスと国立音楽大学で催された。3日間に4つのコンサートが行われて35作品上演され,2つの会場にインスタレーション8作品が展示された。
インターカレッジ・コンピュータ音楽コンサートは情報処理学会音楽情報科学研究会を母体に1995年から毎年会場校を変えて催されている。現在18大学が参加しており,来年度から5大学ほど増えそうである。ちなみに私は情報処理学会音楽情報科学研究会幹事としてICWG(インターカレッジ・コンピュータ音楽コンサート・ワーキンググループ)の代表を務めており,IC開催の基本方針の決定やIC開催大学とICWG参加大学の調整の役目を仰せつかっている。
コンピュータ音楽が日本の場合,音楽大学で正式に教えられることが少なく,ICWG参加大学には工学系大学や美術系大学の参加が目立ち,そのことがこれまでのICに好影響を与えている。つまりICではコンピュータという新しいメディアへのアプローチの仕方が多様であり,安直なDTM的発想を排除し,また現代のコンピュータの持つマルチメディア性に対して創造的関心が高いのである。もちろん,作品の質にはバラツキがある。まあ,そのことも相互に了解し合って,コンピュータ音楽を制作していることが芸術文化創造につながるように持って行きたい。
今年はゲスト作曲家として湯浅譲二氏を招き,彼の招待講演と彼の電子音響音楽の上演が行われた。80歳ということであるがお元気である。前衛の姿勢は堅持されている。1960年制作の《ホワイトノイズによりイコン》は今なおすばらしく,これを超える電子音響音楽は日本ではまだ出ていないのではないか。
今回,教員コンサートで拙作の《Passions ヴァイオリンとコンピュータ音響のための》が上演された。2008年に初演された《Fireworks》の改訂版である。クラシック音楽様式のヴァイオリンパートとコンピュータ音響パートとの間での様式的不一致を改訂した。コンピュータ音響パートをクラシック音楽様式に変えたのである。そのために,今回はクラシック音楽様式であることを強調するために,映像パート抜きで上演した。
実は上演前,コンピュータ音響パートのクラシック音楽様式の改訂に関して大変な不安に駆られていた。コンピュータ音響パートがオーケストラパートの代替として聴衆にとらえられはしないかという不安である。もとよりコンピュータ音響パートをクラシック音楽様式にするという発想自体も自分自身では疑問を感じていたので,その不安は中途半端な発想の作品を聴衆の前にさらすことになるのではないかということにも大きく関係していた。結果,バイオリン奏者(国立音大の星野沙織さん)の好演もあり,私の予想以上に,作品の内容も聴衆の反応もよかったように思う。ただ,コンピュータ音響パートのクラシック音楽様式化は,今後,安易には取り組まない。コンピュータというテクノロジーとメディアの可能性を十分に活かしたものを見極めたい。
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