作曲:2020年6月10日から7月15日。上演時間:11分45秒

この作品は休みを置かずに続いて演奏される6つの小曲から成る。ヴァイオリンとピアノの二重奏曲である。しかしこの編成は基準にしか過ぎず、演奏機会ごとの楽器編成条件に従ってこの2重奏に楽器を増やした編成によっても上演可能である。

タイトルのとおり、この作品はスペインのミゲル・セルバンテスが17世紀初頭に書いた長編小説「ドンキホーテ」に想を得た音楽作品である。この小説の主人公はラマンチャ地方の郷士アロンソ・キハーノで、彼は騎士道物語を読みすぎたために、小説世界と現実世界との違いがわからなくなってしまった。自らを騎士ドンキホーテと名乗り、世の不正を正し、さらには愛するドルシネーア姫を我が手で救い出すために、おいぼれ馬ロシナンテにまたがり、サンチョ・パンサを従者に遍歴の旅に出る。そして勘違いのままいろいろな事件に巻き込まれ、様々な戦いに挑み続ける。しかし敗れることが多くなり、最後は精も根も尽きて故郷に帰ってくる。

ドンキホーテは50歳を過ぎた老人(現代だと80歳を過ぎた老人)。遍歴の旅をするには明らかに歳を取りすぎている。満足いく人生ではなかった焦りが彼を遍歴の旅に駆り立てる。デタラメで無謀な戦いもじつは現実逃避の思いがなせる技。こうしたドンキホーテは惨め。事件や戦いは表面的にはお笑いだが、内実は悲劇そのもの。最後はさびしく哀れに、しかし静かにあの世に旅立つ。その旅立ちの様子にギリギリまで頑張って生きた男の哀愁が漂っている。けっしてドンキホーテは不幸ではなかった、と読者を慰めてくれる。

長編小説なので戦いや事件の数はとても多い。この曲はその中のごくわずかを選び、戦いや事件の様子を描写し、または象徴的に表現し、それらに遭遇した際の心象風景などを描くことで作曲されている。だから物語を音で追いかけ描く標題音楽ではまったくない。

以下、曲毎の内容を簡単に説明する。

第1曲       騎士物語を読みふける
Section I: Fun of Reading Chivalric Romance 

ラ・マンチャの下級貴族のアロンソ・キハーノは騎士道物語が好きで、一日中、読んでいた。夢中になって読んだ挙句の果てに、自らを伝説の騎士と考え、名前をドン・キホーテに改め、世界を救わなければならないと行動に移す準備を始める。また、騎士には愛を捧げる姫が必要と考え、隣村の田舎娘に「ドゥルシネーア・デル・トボーソ」と勝手に名前をつけ、そのドゥルシネーア姫を守ることを誓う。

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第1曲       騎士物語を読みふける
第2曲     風車への突撃
Section II: Assault on the Windmills

痩せこけた馬のロシナンテに跨り、太った農夫のサンチョ・パンサを供に旅立つ。途中、ドン・キホーテは巨大な風車に遭遇する。それを巨人と考えて倒そうとする。

第2曲     風車への突撃
第3曲      わが愛しのドゥルシネーア
Section III: My dear Dulcinea

旅の途中である村に行き、ドゥルシネーアから祝福を受けようとするが、ドゥルシネーアは想像上の人物で、実在しない。サンチョ・パンサは困り果て、三人の田舎娘を姫と侍女だと言い張る。ドン・キホーテはそれらの田舎娘を見てドゥルシネーアが魔法によって変えられてしまったと考える。

第3曲      わが愛しのドゥルシネーア
第4曲      ライオンに無視される
Section IV: Default victory over the Lion

ライオン使いと出会い、ライオンと決闘したいと願い出る。その場にいたものすべてがドン・キホーテを止めようとするが、ドン・キホーテは聞く耳を持たない。やむなくライオン使いは檻の鉄柵を開け放つ。ライオンはドン・キホーテを相手にせずに寝ころんだままだったので、ドン・キホーテは不戦勝だとして納得する。

第4曲      ライオンに無視される
第5曲      思わぬ敗北
Section V: The Unexpected Defeat

学士カラスコが化けた銀月の騎士とバルセロナで戦う。銀月の騎士とは以前は鏡の騎士がと名乗っていた学士カラスコが名パワーアップした姿である。ドン・キホーテは戦いを挑むも、敗北し、すっかり意気消沈して村に帰る。

第5曲      思わぬ敗北
第6曲      正気に戻る
Section VI: Back to the Real World

村に帰り、正気を取り戻す。そして騎士道物語を、侮蔑・非難・蔑視・拒絶する。サンチョ・パンサにも謝罪する。家族(姪)には、次のように忠告する。「騎士道物語を知らない人間と結婚せよ。騎士道物語を読んでいる人間と結婚するのであれば、遺産は一切渡さない。慈善事業に寄付する」と。その後に安らかに息を引き取る。

第6曲      正気に戻る