ヴォルフガング・リーム作曲ピアノ曲第5番《墓》は1975年に作曲された。作曲者のリーム自身が「強制的な力の表現である」と述べているように、この曲はあらあらしいエネルギーにみちあふれた曲である。

曲は対立する2つの要素の交互の出現によって構成されている。まずそのひとつは曲の始まり部分の音楽(譜列1)に代表されるような要素であり、次のような特徴を持っている。音域が一定であること、ホモフォニックであること、中心音が存在すること。これに対立する要素は次のような特徴を示す。音域が不定であること(その音域はピアノのほとんど全音域にわたる)、ポリフォニックであること、中心音が存在しないこと(そのかわりに音列技法によって固々の音が互いに関連づけられている部分を持つ)。ここで前に述べた特徴を要素a、後に述べたそれを要素bとする。

(譜例1)

要素aは曲の冒頭部分のほか、曲のちょうど中間点のあたりと、曲の終わりの方のQuasi Coraleと題された部分(譜例2)とにそれぞれはっきりと出現する。

(譜例2)

要素bはCiaconaと題された中間部分のほとんどを構成する要素となっている。Ciaconaは一種のパッサカリアであり、ここでは16音からなる低音主題(譜例3) の上に、この低音主題の音列に基づいた音列技法による部分がのっかっている(譜例4)。低音主題は4回くり返される。そのくり返しのたびに、単音から3オクタープのユニゾンヘと主題がより強調されて奏される。ただしこの低音主題は1回目の時にはまだ完全な姿を見せない。完全な姿は2回目以降にになり、2回目はdを、3回目にはcisを、4回目にはCをそれぞれ最初の音とする音列に移高されて呈示される。

(譜例3)
(譜例4)

 Ciacona部分にはまだほかに重要な要素がある。それは要素bの中に何度もいろいろな形でくり返し出現してくる和音群であり(譜例5) 、またパッサカリアの各くり返しの後半の部分に必ず現われる和音反復音型(要素aにも関連づけられる)である。これらはこのCacona部分の統一性を保証するための大切な要素として機能している。

(譜例5)

この Caconaは前に述ぺたように、全曲の中間点あたりで —— パッサカリアの低音主題のくり返しが3回目から4回目に移る時 —— 要素aによって一時中断される。 ところが要素aの中心音Cはパッサカリアの低音主題4回目の最初の音であって、この両要素のこの1固所での引き継ぎはきわめてスムーズに行なわれる。