基本情報
1990年に創価学会関西吹奏楽団の委嘱によって同楽団(大規模な吹奏楽編成)と久保田善則のために作曲、同年12月1日に大阪フェスティバルホールにて磯貝富治男の指揮によって初演された。その後1991年の東京現代音楽祭のために軽微な改訂を施して久保田善則と国分誠指揮の東京佼正ウィンドオーケストラによって12月1日にサントリーホール大ホールにて再演。その演奏はCD「現代日本の吹奏楽」(KOCD-4501/4502)に収録されている。同年1991年12月26日に大阪大学吹奏楽団第21回定期演奏会にて再々演。
作品概略
タイトルのヤントラはサンスクリット語によるもので、動的なパワーを図形化したものを意味する。曼荼羅の一種である。本来のヤントラではその図形化は幾何学的な形象によってなされる。しかしこの曲では動的なパワーは音楽によって生じるものと捉え、その音楽をアモルフ(無定形)な形象に図形化することで構想した。つまり一種の図形楽譜であり、音楽の推移を音符ではなく図形としていわばデザインしたのである。その後にその図形の音楽的意味を追確認しつつ、図形を書き直しては構想を膨らませた。最終的にその図形を演奏用に五線楽譜化した。残念ながら構想の際に描いた図形楽譜は紛失した。
曲はおおまかには急―緩―急の3つの部分から成る。音による動的パワーの主体は反復であり、反復の主体は打楽器である。反復は結果としてヤントラに関係する密教の読経のようにきこえる箇所をいくつか生じさせた。
演奏時間は約10分半。
作品分析
全体構成
基本的には急(第1部)―緩(第2部)―急(第3部)の3つの部分から成る。
第1部
それ自体Andante[1a] →Allegro feroce[1b] → Allegro non troppo[1c] → Allegro feroce[1d] →Meno mosso[1e]の5区分から成る。
[1a]は神秘的な持続和音の出現(譜例1)とその反復による音楽。そこに反復を強調するかのような主題が現れる(譜例2)。その主題にはこの曲全体を統一する原動機Urmotif(譜例3)が含まれている。反復の間隔は徐々に短くなり、切迫感を強める。
[1b]は速いテンポの激しいリズムによる踊り狂うような音楽(譜例4)。
[1c]は行進曲のようなリズムの上での原動機の反復が目立つ。
[1d]は第1部のクライマックスに向けて圧縮された[1b]の再現。
[1e]は和音の反復で力を減じていって第2部に移行する。
(譜例はクリックすると拡大表示されます。)
第2部
それ自体Grave前半[2a] → Grave後半[2b] →Andante con anima [2c]→ Lento con espressivo [2d]→打楽器ソロ[2e]の5区分から成る。
[2a]は原動機とそれを修飾する音型が絡み展開する(譜例5)。
[2b]も同様であるが、細かく揺れ動くような音型の連続が修飾する。
[2c]一転して活発に成り、原動機から派生したモチーフによる楽句が反復変奏を続け、盛り上がる(譜例6)。
[2d]サクソフォンのソロによる旋律を中心とする音楽。原動機が断続的に出現する。
[2e]は打楽器ソロで、後半にCadenzaと題された箇所があり、独奏者の即興演奏が入る。
第3部
この部分は一貫してAllegro molto e vivaceの速度標語が与えられている。[3a]→[3b]→[3a’]→[3c]→[3a”]の5部分から成る疑似ロンド形式的構成ぼ音楽。
[3a]は原動機を用いた主題(譜例7)。
[3b]はなだらかな旋律線と原動機を組み合わせた音楽。原動機の展開を含む(譜例8)。
[3c]はリズム動機を中心にした音楽(譜例9)。
[3a”]はフーガ風に主題が展開し、クライマックスを形成する。