2018年2月10日(土)、いずみホールでの「いずみシンフォニエッタ大阪第40回定期公演〜幻想と衝撃の夢体験〜」を聴いた。指揮は常任指揮者の飯森範親。曲目はレスピーギ《ローマのいずみ》(室内管弦楽版/川島素晴編曲)、西村朗《オーボエ協奏曲「四神」》(委嘱新作、オーボエ独奏トーマス・インデアミューレ)、カーゲル《フィナーレ》。

三管編成のオリジナルを約30名の室内楽編成+オルガン用に編曲した《ローマのいずみ》(「噴水」ばかりでなく「祭り」や「松」の断片も織り込まれている)は川島の編曲の腕前に感嘆。室内楽オケとは思えないほどの豊穣な響き。オリジナル以上に変化に富んでいて、かつ色彩感豊かで、聴く者を心底たのしませた。

西村の《オーボエ協奏曲「四神」》は4種類のオーボエ(オーボエ以外にイングリッシュ・ホルン、オーボエ・ダモーレ、バスオーボエ)のためのもので、オーボエの世界的名手トーマス・インデアミューレのために作曲されたもの。一作曲家としての私からの作品について率直な感想は「うまい」の一言。持続の作り方、展開の仕方、聴き手をたのしませるための“聴きどころ”の盛り込み方、魅力的な響きを現出するための楽器法など、そのうまさに舌を巻いた。トーマス・インデアミューレは1m90㎝以上の大男で、バスオーボエも小さく見えるほどラクラクと扱い、テクニック抜群で、おまけに最後の延々と続く重音のトリルを一息で吹き抜いた。ある意味で骨太であり繊細でもある西村の音楽を実現するのにぴったりの演奏家だ。

マウリツィオ・カーゲルの《フィナーレ》は指揮者が指揮台の上で倒れてしまう演出(楽譜にそのように指示されている)がバラエティ番組で紹介されるほどによく知られている曲だ。前半は普通の室内管弦楽曲として演奏され、その音楽展開も魅力的だ。後半になってムジークテアター(Msiktheater=音楽劇)的展開になり、実験音楽作曲家としてのカーゲルの一側面を遺憾なく発揮した佳品。この曲はいずみシンフォニエッタ大阪の第1回目の演目で、その際の聴衆の反応がこの楽団のその後の方向を決定づけたとのこと。そうだろうと納得した。

いずみシンフォニエッタ大阪はいつもほぼ満席。現代音楽にそれほどなじみないだろうという聴衆もたのしんで参加している風が窺える。理由としてはまずは演奏がよいこと、西村のトークがうまく聴衆の音楽への集中をかきたてること、ホールの雰囲気が高級でありながらも親密感をかきたてること、週末の午後4時開始6時終演という時間帯が終演後の食事歓談のたのしさの余裕をもたらすものであること、など。

そして最後に付け加えたいのは指揮者の飯森範親の素晴らしい演奏ぶり。もちろんカーゲル作品における演劇的動作も含めて。彼にも音楽の好き嫌いはあるだろうが、それを超えて与えられた役割を誠実にこなし最良の結果をもたらすべくチャレンジするという点ではピカイチの存在ではないだろうか。SNSの彼自身の書き込みを読むとたいへんな演奏会本番の数のように思えるが、愚痴など一切なく、まじめに前向きに音楽を創造しているその姿勢に感嘆する。