基本構想に関する私の対案(具体案)をいくつか提案させていただきます。
これは,私が把握している範囲ー構想案と議事録から知りえたことーからの案です。
拠点文化施設構想に関してお役に立ちたいという思いで提案を書かせていただきます。

<提案1>
「芸術文化蓄積(アーカイブ化)のために「上演芸術資料館」(仮称)の設置」
上演芸術の対象は,音楽・舞踊・演劇です。
上演芸術と対象を限定したのは、それが盛んな福岡において、必要性もあり,また福岡からの強い発信力になると思うからです。
資料館は拠点文化施設の中に設置されます。
資料の実物は一般に閲覧可能であり,多くの資料はデジタルアーカイブ化されてネットを通しても閲覧可能なようにされます。
実物資料の一部は,拠点文化施設のロビー等に常に展示されています。
当然,資料館は研究機関であり,福岡を中心とした九州の芸術文化やその歴史を研究し,その成果を広く発信します(冊子及びメールマガジンで)。それとともに,現在進行形の上演芸術の研究にも関わることになります。ここでの研究成果が,この拠点文化施設が発信する芸術文化創造にも大きく関与することになります。

<提案2>
「拠点文化施設の名前を冠した楽団・舞踊団・劇団の創設」
拠点文化施設が芸術文化創造を一番はっきりとした形で示すことができるのが,その施設の名前を冠した楽団・舞踊団・劇団の創設です。
私は音楽に一番関係が深いので,楽団に関して提案意見を述べさせていただきます。ただしあくまでも一例です。
九州交響楽団がすでにありますので,楽団としては奏者20名以内の室内合奏団をイメージしております。年3-4回程度の定期演奏会を行います。
楽団員を職員として雇用契約するのではなく,1回の演奏会ごとに演奏料を払うという関係のもとに楽団員は演奏することになります。演奏会は拠点文化施設の主導で企画され,演奏会開催実務はすべて拠点文化施設が行います。(このことだけでも普通の演奏家の負担はかなり軽減されます。)
楽団の企画に関しては,先の資料館研究員とも連携して,「福岡からの芸術文化創造として何を発信するか」,という視点での企画であることが重要です。
拠点施設の名前を冠した楽団を単なるクラシック音楽の楽団というイメージに留めることなく、舞踊や演劇,映像とのコラボレーション,デジタルアートとの融合した作品なども積極的に行う楽団として育てていきます。
そのユニーク性を世界に向けて発信するものを意識します。
もちろん,市民の創造的文化生活の要求に応えるものも企画の際に十分に考慮に入れます。

<提案3>
「デジタル・アート(メディア・アート)パフォーマンス対応の空間(ホール)の設置」
3つ予定されているホールのうち,一つは,他に類を見ない,独自な機構のホールにします。
具体的には,音響はあえてデッドにし,その代わり自在に電子機器で音響・舞台・映像が制御可能な設備が完備された「デジタル・アート(メディア・アート)パフォーマンス対応の施設をホールとしてひとつ設けます。
福岡はゲーム産業,デジタル産業がさかんであり,デジタルアート・イベントも非常に活発です。九大芸工を中心にその種のことに対して才能ある若いアーティストやエンジニアが育っています。その彼らの作品発表の場にとっても重要ですが,それよりもそこから積極的にアートやテクノロジーを,上演芸術に特化して発信し,世界に向けて新しい価値を創造するのです。
現在,この種のデジタル・アート・パフォーマンスを多目的ホールで行おうとすると,機器調達と設置が非常に大変です。そうしたことをできやすくする設備環境をもつホールがあると,創造と発信の可能性は一挙に広がります。
この種のホールを持ち,このホールのために拠点文化施設が定期的に(たとえば年1回のフェスティバルでもよい)企画開催すると,世界からの注目をあびること必定です。芸術・産業・技術領域でもっとも注目されている領域ですし,未来においてもその注目関心がなくなることのない領域です。

<追記>
以上の提案において,それがうまく行くか否かは,結局「人」の問題と思います。もちろん、財政面の問題もあるでしょう。
しかし、それ以上に指導者,企画,技術,研究,運営において,いかに適正な人、熱意をもった人材を配置できるかということだと思います。
山口情報芸術センター(YCAM)は私や私の研究室学生がもっとも注目している,またもっとも影響を受けている施設です。実に素晴らしい活動をしています。その原因は,阿部一直というすぐれたキュレーターの指導的はたらきにあります。