九大フィルハーモニーオーケストラ第184回定期演奏会を聴く(2010年6月25日,アクロス福岡シンフォニーホール)。
曲目はボロディン《交響曲第3番イ短調(未完)》,ラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番》,シベリウス《交響曲第2番》。指揮は堤俊作,ピアノは台湾出身のリー・ユン=ヤン。
1曲目のボロディンは日頃の疲れが出て完全に沈没(つまりほとんど居眠り)してしまった。そのおかげで2曲目からはバッチリと目が覚めた。
ラフマニノフはピアニストのリー・ユン=ヤンが素晴らしかった。スケールの大きさというものは感じなかったが,演奏が正確であり,技術的にも安心して聴けた。何よりも演奏への真摯な取り組みを感じることが出来た。というよりも,音楽をすることが好きで好きでたまらないということをその演奏から感じ取ることが出来た。これは,もう理屈ではなくて,はっきりとそう感じさせたのである。アマチュアオケの演奏会にはめずらしく,かなりのブラボーの声があちこちであがり,アンコールまで要求され,その後もしばらく拍手が鳴り止まなかった。けっして有名なピアニストではないにもかかわらず,よい演奏にはそれなりの反応を福岡の聴衆はするのである。
シベリウスの第2番は久しぶりで聴いた。高校生の頃(もう40年以上も前)この曲が大好きで,カラヤン指揮のウィーンフィル(だったと思う,レーベルがグラモフォンではなくEMIだったから)のLPを散々聴いたことがある。九大フィルの演奏はところどころにミスもあり,もちろん完璧ではないし,第2楽章などは随分早めのテンポだなと驚きながら聴いていたし,終楽章の終わり方もやや中途半端。しかし,その演奏はシベリウスのこの曲が名曲であることをあらためて感じさせてくれる感動ものであった。
私は知り合いのいるアマチュアオーケストラの演奏を聴くのが割合好きである。その場で「演奏していること」を実感して,いつの間にか集中して演奏に聴き入ってしまうからである。演奏を身近に感じるのである。ちょっと喩えは悪いが,ピアノの発表会で我が子のピアノ演奏を聴く親の心境に近いか。
CDやDVDでクラシック音楽を聴くことが常態化している今日,生演奏においても傷のない演奏ばかりが求められ,CDなどの名演奏と比較してしかその生演奏を語れない。音楽のライブ性や現場感がどんどんと薄れている。それを取り戻すには,演奏者を身近に感じることである。演奏者は身近な聴衆を作るべきである。そういう身近なコミュニティを意識することからしか,それを超えた真の広がりを持つことは出来ないように思う。