キム・ドクス著/清水由希子訳『世界を打ち鳴らせ サムルノリ半世紀』岩波書店,2009を読む。2008年の夏に福岡でキム・ドクスのサムルノリの公演を聴いて強い感銘を受けており,また私のゼミの指導学生でチャング奏者のイ・キョンミがキム・ドクスの知り合いであることから,キム・ドクスと彼のサムルノリに非常に興味を持っていた。それで一気にこの本を読んだ。
放浪芸人の男寺党(ナムサダン)に入って幼少の頃からプンムル(農楽)を演奏し続け,韓国伝統音楽の世界で成長したキム・ドクスは,プンムルを演奏するマダン(広場)を失ってから室内で座って演奏できるサムルノリを創始する。そのサムルノリが韓国を代表する芸能として認められていく過程や,その過程における彼自身の生き様や,伝統と創造をめぐる彼自身の葛藤や,民族的なものを世界に向けて発信していこうとする彼の思いなどが,彼の肉声のままに綴られていて,非常に読みやすく,感動的である。
蔑みの対象である放浪芸人男寺党から出発し,今や韓国が世界に誇る芸術家となったキム・ドクスの生き様は,彼の音楽同様,我々に生きる力と勇気を与えてくれる。あやかりたいと思う。
なお,巻末の音楽学者植村幸生の手による解説「サムルノリの方法」は,サムルノリについての音楽学的な説明で,サムルノリそれ自体についての理解が深まる優れもの。