BACA-JA(Broadband Art and Contents Award Japan)の2009年度のコンテンツ部門の受賞佳作入選作品のDVDが送られてきた。
BACA-JAは大学生対象のコンペである。以下,そのコンテンツ部門(映像アート部門)の受賞・佳作・入選作品の一部について,思うところを述べる。
最優秀作 「memory」(7:01)
九州大学大学院 山元 隼一 古屋 隆介
CGを中心にしたアニメーション。アニメーション技術自体の質は高い。筋書きや設定も手堅くまとまっている。ただ,休みなく鳴っている音楽が安易に一定のムードを形成し,本来なら画像から喚起され得る多様なイメージをむしろ狭めている。また,画像への視聴者の集中を妨げている。惜しい。
優秀作 「目覚め」 (2:37)
武蔵野美術大学 徳井 伸哉
アニメーション。テレビの中のアニメのキャラクターの顔の一部から乳房を連想し,そこからさらに性的な妄想を発展させていく男の子が主人公。この設定がユニークで,これはありそうで意外とない。男の子の表情がきめ細かく描かれていて,視るものを惹き付ける。妄想世界のBGMにショパンのエチュード(Op10-4)を使用していたが,これは動きを強調するために有効に機能していた。
佳作 「コンセント」 (10:20)
東京工芸大学 野中聡紀 梅脇かおり 瀬川亜希 松本早織
丁寧な作りのアニメーション。画もきれいで,ユニーク。ただ,「どこかで見たような」という感じがいつもつきまとう。
佳作 「アトミック・ワールド」 (2:46)
武蔵野美術大学 今津 良樹
卵があり,それから何かが生まれ,発展していき,また卵に還るというとめどもない連想をアニメーション映画化したもの。ブラームスのハンガリア舞曲第5番の映像イメージ化の側面もある。O.フィッシンガ―も同じ曲を映像イメージ化しているが,抽象映像であり,イメージの飛翔に制限があったが,こちらの作品はイメージの飛翔自体を映像化し,それがさらに視聴者のイメージを飛翔させるところがあった。画像の密度の点で最優秀作に見劣りがしたが,作家としての発想の豊かさはむしろこちらの方がある。
佳作 「マッド前線」 (6:31)
多摩美術大学 浅場 万矢(ハダシの万矢)
このコンペにはめずらしい実写を中心とした作品である。徹底して足をモチーフにした作品で,「歩く」「走る」映像が連続して続く。かつての「実験映像」ぽい。安易に音楽を使用していない点と,オルゲルプンクト的に足音の反復を持続音的に鳴らしているところとを積極的に評価したい。
佳作 「赤い糸」 (4:50)
金沢美術工芸大学 奥下 和彦
画面を横切る赤い糸で様々なオブジェを連続的に形成していく。きちんとしたまじめなつくりで,それだけにちょっと単調。どこか「やぶれ」があるともっと面白くなる。音も音楽ではなく,モノ音を使えば内容が豊かになる。音楽は動きをサポートするだけ。イメージを画像に付与することはあまりない。
入選 「HANDS」 (2:00)
武蔵野美術大学 meK±(メックプラスマイナス/高橋 圭、中川 真理子、福士 亮平)
複数の手によるコマ撮りアニメ。マクラレンのアニメを想起させる。「動き」を形作る技術習得の習作としてはよくできている。ただ,それだけ。
入選 「Wondjina」 (14:22)
京都市立芸術大学 宮永 亮
実写中心の作品。水面や砂漠や空などの単一テクスチャーによる風景を主に素材として,それを神秘的な雰囲気が出るように加工し,ゆっくりとした変化過程を描いていく。逆再生したような音楽も雰囲気をよく引き立てている。私自身は「入選」以上の評価を与えたい。
入選 「slip」 (3:45)
京都精華大学 辻尾 真由美
銀河系の星の群れが様々な形状を織りなしていくような映像。非常によくできている。これにも私自身は「入選」以上の評価を与えたい。ただ,音楽が映像内容に適合しすぎ。映像内容をなぞっているだけ。これではイメージの飛翔は生まれない。