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Piano Trio “Turning Points”(解説)

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ピアノ三重奏「ターニング・ポインツ(Turning Points)」は2005年の作曲である。チェリストの松崎安里子の依頼によってトリオ・シュパンツィヒのために作曲したものである。

ピアノ三重奏はほとんど19世紀で終わってしまった編成様式であり,20世紀以降の作品ではラベル,ショスタコーヴィチのものがよく知られているに過ぎない。無調性の音楽が支配的になった20世紀以降の音楽の場合,ピアノ三重奏は名曲を生み出しにくい編成様式になってしまったようだ。まず,和声進行を支える楽器としてのピアノはその役割を失った。このことはヴァイオリンとチェロという二つの弦楽器にとってはピアノとの結びつきの必然の不在を意味する。また,ふたつの弦楽器は「線」の絡み合いだけを演出するには十分であるが,その絡み合いで「群」を形成するにはあまりにも少なすぎる。つまりピアノ三重奏という編成のために作曲するには,やはり19世紀的な調性音楽の様式に限るのである。

しかし,21世紀を生きる作曲家が19世紀の様式に頼ることはリアリティのないことおびただしい。そこでピアノ三重奏「ターニング・ポインツ」では疑似調性様式を中心にしつつも,20世紀以降の様々な音楽様式を曲中の各所に点在させ,あたかも「様式」のコラージュのように構成することを試みた。調性音楽、12音音楽、クラスター音楽、ミニマル・ミュージック、民俗音楽などの様式がこの曲の中に併存している。様々な種類の音楽に接している現代の作曲家にとって、特定の様式に縛られる必然性はまったくないのである。様々な音楽様式を結びつけるのはミの音(E)である。

曲は3つの楽章から成っている。第1楽章は3部分から構成されている。第1部分はAllegro con motoの速いテンポで、第2部分はModeratro – Andanteのやや遅めのテンポで、第3部分は第1部分の再現部として速いテンポで演奏される。第2楽章はスケルツォ的な性格を示し、Presto molto の非常に速いテンポで一気呵成に演奏される。第1楽章と第2楽章はともに最初の楽想が終盤に回帰するという意味での三部形式である。第3楽章は序奏付きの一種のロンド形式である。ただしその主題は出現のたびに変奏され、この楽章は変奏曲としての性格も併せ持っている。

ターニング・ポインツ(転換点)という曲名は,音楽に関する作者の考え方がこの作品の作曲を通して変化したという意味でつけられていて,標題的意味や構造的意味をまったく持たない。したがって曲を聴く際にはこのタイトルを意識する必要はまったくない。

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