【演奏時間】13分【委嘱】松崎安里子【作曲】 2004
【初演】 2006.11,22 福岡キリスト教会館, 太田圭亮(Vl) 、有泉芳史(Vc)、花崎望(Pf)
【再演1】2007.6.22 長久手文化の家 風のホール、トリオ・シュパンツィヒ:中川さと子(Vl) 、松崎安里子(Vc)、山下勝(Pf)
【再演2】2010.10、西南学院コミュニティホール、中村滋延還暦記念演奏会、原田大志(Vl)、市寛也(Vc.)、山本佳代子(Pf)
【出版】マザーアースN1004FR
【概要】ピアノとヴァイオリンとチェロによる三重奏曲で3楽章制。部分・断片ごとの様式の違いによって音楽を展開させた作品。あえて派手な演奏効果を狙った音楽。

ピアノ三重奏「ターニング・ポインツ(Turning Points)」は2005年の作曲である。チェリストの松崎安里子の依頼によってトリオ・シュパンツィヒのために作曲したものである。

ピアノ三重奏はほとんど19世紀で終わってしまった編成様式であり,20世紀以降の作品ではラベル,ショスタコーヴィチのものがよく知られているに過ぎない。無調性の音楽が支配的になった20世紀以降の音楽の場合,ピアノ三重奏は名曲を生み出しにくい編成様式になってしまったようだ。まず,和声進行を支える楽器としてのピアノはその役割を失った。このことはヴァイオリンとチェロという二つの弦楽器にとってはピアノとの結びつきの必然の不在を意味する。また,ふたつの弦楽器は「線」の絡み合いだけを演出するには十分であるが,その絡み合いで「群」を形成するにはあまりにも少なすぎる。つまりピアノ三重奏という編成のために作曲するには,やはり19世紀的な調性音楽の様式に限るのである。

しかし,21世紀を生きる作曲家が19世紀の様式に頼ることはリアリティのないことおびただしい。そこでピアノ三重奏「ターニング・ポインツ」では疑似調性様式を中心にしつつも,20世紀以降の様々な音楽様式を曲中の各所に点在させ,あたかも「様式」のコラージュのように構成することを試みた。調性音楽、12音音楽、クラスター音楽、ミニマル・ミュージック、民俗音楽などの様式がこの曲の中に併存している。様々な種類の音楽に接している現代の作曲家にとって、特定の様式に縛られる必然性はまったくないのである。様々な音楽様式を結びつけるのはミの音(E)である。

曲は3つの楽章から成っている。

第1楽章は3部分から構成されている。第1部分はAllegro con motoの速いテンポで、第2部分はModeratro – Andanteのやや遅めのテンポで、第3部分は第1部分の再現部として速いテンポで演奏される。

第2楽章はスケルツォ的な性格を示し、Presto molto の非常に速いテンポで一気呵成に演奏される。第1楽章と第2楽章はともに最初の楽想が終盤に回帰するという意味での三部形式である。

第3楽章は序奏付きの一種のロンド形式である。ただしその主題は出現のたびに変奏され、この楽章は変奏曲としての性格も併せ持っている。

ターニング・ポインツ(転換点)という曲名は,2001年頃から作曲に関する私の考え方が変化しつつあるのを受けて、その変化を明確に意識した作品という意味を込めてつけた。それまでは音楽をいかにコンポジション(構成)するかということが作曲における最大関心事であった。言わば内容よりも形式が重要であったのだ。しかし21世紀に入り、自身の生活環境の変化もあって、形式よりも何を描くかという表現内容を中心に音楽を作るようになったのだ。この作品における様式の混在は「形式よりも内容」に関わっている。ただしこの作品においての表現内容は具体的な物語や思想ではなく、当時の私自身の身の回りの様々な出来事に対する私自身の精神的葛藤であり、その告白である。