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作品解説《はながたみ(バレエ音楽)》

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バレエ音楽「はながたみ」作曲にあたって

(3月9日,京都駅ビル「シアター1200」での初演時掲載予定プログラム解説より)

バレエ音楽「はながたみ」は,99年作曲のバレエ音楽「ミノタウロスに捧げた愛 」に続く,桧垣バレエ団公演のための書き下ろし第2弾である。

「ミノタウロスに捧げた愛 」はピカソという現代美術家をモチーフにしていること,また筋書きも象徴的なものであることなどから,クラシックバレエをあまり意識しないで作曲した。現実音や効果音,電子音を多用したミュージック・コンクレートで,通常のバレエ音楽の常識とはずいぶんかけ離れたものであったかも知れない。そのために振付の小西裕紀子さんには大変な苦労を与えてしまったと思う。

今回の「はながたみ」は,筋書きも具体的なものであり,いわゆる「時代物」であり,また「愛」がテーマとしてパ・ド・ドウも設定されていたりして,作曲にあたっては通常のバレエ音楽を非常に意識せざるを得なかった。しかしこのことは作曲にあたってけっしてマイナスに作用したわけではない。

じつは,昨年の桧垣バレエ団の桧垣版「白鳥の湖・オデット」の選曲に携わったりした経緯もあり,バレエ音楽に非常に興味を持つようになり,いわゆるクラシックなバレエ音楽も作曲してみたいという気持ちも強かったのである。したがってこの「はながたみ」は通常のバレエ音楽と同じように最終的にはオーケストラで演奏されることをにらんで作曲されている。今回はオーケストラの代りに電子楽器の音を使うことになった。しかし,電子楽器のための編曲もオーケストラに近い音色,オーケストラらしい効果ということに主眼をおいてなされている。じつはそのために編曲作業は思った以上に大変だった。

音楽そのものは筋の展開にあわせて様々な様式の音楽を混在させている。バッハ風あり,チャイコフスキー風あり,ストラビンスキー風あり,プロコフィエフ風あり,雅楽風あり,ミニマルミュージック風あり,果てはジョン・ケージ風まである。しかし表面的な多様性の反面,音楽構造上では個々の音楽は相互に密接に関連しあっている。少し注意して聴いていただければ,いくつかのモチーフが様々な音楽様式の中で変奏されて登場してくるのが分かっていただけると思う。

ひとつの音楽作品の中でいろいろな様式の音楽が混在しているのは,現代という時代がなせる技である。(現代は多様な音楽様式がストックされ,それらが混在して聴かれている時代である。)その意味ではバレエ音楽「はながたみ」は,クラシカルな音楽様式の部分を持つが,明らかな「現代音楽」なのである。

 

(注)ミュージック・コンクレート(musique concrete)は日本語で「具体音楽」と呼ばれることがある。ひとたび外界に鳴り響いた音を録音し,これを機械的・電気的・電子的に操作して変質・編集して一変の音楽作品に仕上げるものである。したがって素材としては楽器の音に限定されず,様々な物音を含めてあらゆる音がその素材になり得る。

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