【作品名】EL-12《パストラーレ》フルートとクラリネット,ヴァイオリン,チェロのための 
【Title】Pastorale for Flute, Clarinet, Violin and Viloncello

【演奏時間】10分【作曲】1987.2【初演】1987.5, 京都ドイツ文化センター, 日独現代音楽演奏会’87「20世紀後半、多様な室内楽の展開」、長山慶子(Fl)、本田耕一(Cl)、福富博文(Vl)、斉藤建博(Vc)
【改訂・改題】2020.3、旧題《ベンダー(Bänder)》、改訂版未初演

【概要】旧題のBänderはドイツ語のBand、すなわち紐(ひも)・帯の複数形である。これは各声部を紐に見立て、複数の紐の絡み合いが音楽という帯を形成するというこの曲の基本案から来ている。紐であると見做すために各声部は音型反復と持続音によって静的状態を保つように構成されている。帯の模様を形成するために紐自体も変化し、紐同士絡み合いの仕方も変化する。この曲の初演後に「音楽芸術」(音楽之友社)1987年7月号で評論家の松本勝男氏がこの曲を「大きなミニマル・ミュージック」と評してくださったが、まさに慧眼。なお、静的状態がのどかな音楽的外見を示すので、今回の改訂の際に際してタイトルをPastorale(牧歌)とした。

【作品解説】

各声部は2度下行音型を核モチーフとして、その核モチーフの反復による楽句・楽節の組み合わせによって音楽が構成されている。核モチーフは、その登場の都度、拍子や速度、音域・音高やリズム、楽器の選択・組み合わせなどを変えることによって多様性を生み出している。

「紐・帯」というキーワードからも分かるように音楽自体は大きく分割・分節されることはないが、主にテンポの違いから次のように分節して聴くと音楽構造が把握しやすい。

第1部:Andante(四分音符=60)/冒頭~練習番号1

冒頭、フルートによる核モチーフ(長2度下行)の提示。

(譜例1)

譜例はクリックすると別のタブで拡大表示される。以下も同様。

第2部:Moderato(四分音符=80)/練習番号2~5

フルートが核モチーフによる帯を形成し、他の楽器がその帯に彩りを添える。途中、静的状態を脱して動的展開を見せ、後半には劇的表情を垣間見せる。

’譜例2)
第3部:Andante(四分音符=60)/練習番号6

フルートによる核モチーフの提示。(第1部の再現)

第4部:Con moto(四分音符=96)/練習番号7~11

この作品の中心部分。速いテンポによって核モチーフを用いた動的展開が続く。しかし劇的表情は控えめ。核モチーフの反行形(2度上行)も出現する。

(譜例3)
第5部:Scherzando(四分音符=80)/練習番号12~13

短いが制限された素材による音楽で核モチーフの存在が際立つ。

(譜例4)
第6部:Lento(付点四分音符=54)/練習番号13~18

8分の6拍子による音楽。チェロが核モチーフを素材とする音楽をゆったりと展開する。

(譜例5)
第7部:Scherzando(四分音符=80)/練習番号19~27

第5部の拡大された再現。動的な様相を示すが、わずかな差異を伴なった反復という点ではもっともミニマル・ミュージック風である。

第8部:Tranquillo(四分音符=66)/練習番号28~29

ヴァイオリンソロを中心とした音楽。

(譜例6)
第9部:Andante(四分音符=60)/練習番号30~31

フルートによる核モチーフの提示と展開。(第1部の再現)

第10部:Allegro molto(四分音符=132)/練習番号32~39

速いテンポによって奔放なイメージの音楽。核モチーフが各楽器によってそれぞれ異なる様相・構造で展開される。

(譜例7)