【演奏時間】8分【作曲】1972.8【初演】1973.10.18、「グループ北斗第1回作品演奏会」、日本楽器名古屋店7階ホール、竹本はるる(Vn)、竹本はるみ(Pf)【改訂・改題】2020.3、旧題《ソナタ》ヴァイオリンとピアノのための)、改訂版未初演
【概要】大学4年生の時の作品。12音技法で作曲。その頃、すでに12音技法は時代遅れという雰囲気だった。しかし構造を軸に作曲するためには新ウィーン楽派の12音技法を用いることは私には有用だった。特にグレン・グールドが演奏するシェーンベルクを聴いてからはその思いがより強くなった。なお、グールドは特異な解釈をするピアニストのように思われているが、音楽構造を把握する能力にきわめて秀でた音楽家であるとの思いをこの作曲を通してはっきりと感じた。
【作品解説】
急―緩―急の伝統的な三楽章制の楽曲。第一楽章、第二楽章ともにソナタ形式、第三楽章はロンド形式に基づく。ただし形式を成り立たせるための重要要素である調性が存在しないので、ここでいう形式名はあくまでも図式的なものにしか過ぎない。
基礎音列は下記の譜例の通りであり、三つの楽章に共通する。(譜例1)
譜例はクリックすると別のタブで拡大表示される。
第一楽章提示部の第1主題(譜例2)はヴァイオリンとピアノ両パートともに十六分音符を中心とする運動性に富むもの。個々の音型は比較的明確な方向性(上行する、下行する、停滞する、etc.)を示す。第2主題(譜例3)はヴァイオリンによる旋律線を強調するもので、八分音符を中心とすることで第1主題との音価面での対照を示す。
展開部では最初のうちピッチカートによる同音反復がヴァイオリンに登場し、音楽的停滞を現出し、雰囲気を変える。その後、ヴァイオリンとピアノともに音域幅の広い周期的リズム(ヴァイオリンは八分音符単位、ピアノは十六分音符単位)による音型を連続させる。展開部というよりも提示部や再現部との差異を強調する中間部としての性格を持つ。
再現部は提示部をかなり短縮するが、音楽的にはほぼ同じである。第1主題の再現はリズム的な短縮によって気付きにくいかもしれない。その分、コーダにおいて明確に再現される。
第二楽章の第1主題はヴァイオリンによる主旋律とピアノによる伴奏音型という明確な役割分担で提示される(譜例4)。第2主題も旋律(バイオリンの高音域)と伴奏音型(ピアノの高音域)とが明確に役割分担されている(譜例5)。中間部は一転してアレグロの大音量の激しい音楽になる。再現部は第一楽章と同じく縮小されている。
第三楽章はロンド形式(A-B-A’-C-A”-B”-a)である。主題Aのヴァイオリンは冒頭の一六分音符のトレモロ風の音型に特徴がある(譜例6)。主題Bはピアノの伴奏音型に特徴があり、高音域の和音の連打が印象的である(譜例7)。主題Cは旋律要素が後退し、ヴァイオリンにおける持続音とピアノにおける同音反復に特徴がある(譜例8)。
なおこの作品は「習作」と見做して長く引き出しにしまったままであったし、作品リストにも載せていなかった。それこそ半世紀近く前の作品である。今回必要があって楽譜を見直し、また初演時の録音を聞き直してみたらそれほど悪くないのである。12音技法による作品ということでの個性の不在に何となく引っかかってもいたのであるが、そのようなことはまったくない。そこで表現の細部を手直し、音楽の外面的性格が直截的に伝わるようにタイトルもカプリッチオ変更した。演奏機会を望んで作品リストにも新作登録したのである。