<読書ノート20180202>

久しぶりに小林よしのりの本を読んだ。『新堕落論』。彼がゴーマニズム宣言という本で社会の矛盾や問題点を漫画という形の独自の切り口で次々と明らかにしていた今から20年ほど前、一時は彼の本にはまっていた。その驚くべき博覧強記ぶりと、論の展開の仕方、そして何よりも魅力的な絵。すごい作家だと思った。ちなみに今回の表紙の写真は『堕落論』を書いた坂口安吾の書斎での執筆写真(きたない部屋が有名)のパロディである。

だが彼が保守派の社会科教科書編集に関わりはじめたり(ただしすぐにそこからも手を引いたらしい)、従軍慰安婦問題に対する右翼的な彼の理解に疑問を感じたりして、いつのまにか彼の本を読まなくなってしまった。彼は保守的な右翼的作家だと思い込んでいたのである。それが去年10月の総選挙で立憲民主党を応援していたのでびっくりした。私の地元の高槻では辻元清美の立会演説に応援弁士として登場、反安倍・反自民を唱え、辻元清美の活動を讃え、彼女を全面応援したのだ。「朝まで生テレビ」などの番組では二人は激しくやり合っていた。高槻に立憲民主代表の枝野が来たときには選挙カーの上に一緒に立ち、降りしきる雨の中を枝野代表に傘をさしかけたりして、この人、優しい人なんだと感じ入ったりした。

彼はまた不倫スキャンダルで窮地に追い込まれた山尾詩桜里を応援し、山尾の地元の集会にも足を運び、公私混同するマスコミに山尾の能力が日本のために必要なんだと言うことを力説していた。私も山尾へのマスコミのバッシングには頭に来ていたし、彼女の能力をぜったいつぶしてはならないと思っていただけに、小林よしのりを見なおした。

この本は太宰治の『トカトントン』の紹介から始まる。意欲があってやろうとしてもどこかから「トカトントン」という音が聞こえてくるとやる気が失せる、という終戦直後の人々の苦悩を描いた短編。これを冒頭に紹介することで、小林自身が直面している現代の政治社会状況下の苦悩を語る。今が少し前にくらべてが理不尽が横行する世の中になっており、その中で反政権のスタンスでいることがいかにたいへんであるかを物語る。共謀罪はトカトントンなのだと指摘する。

全体は17章から成り、これまでの「ゴーマニズム宣言」と同じように、最後は小林よしのりが「ごーまんかましてよかですか」と博多弁で問題を具体的に指摘するので、各章の結論は明確でわかりやすい。結論にいたるまでも論理的である。彼は先入観や固定観念に束縛されていない。その分、ひとつの事項に関して考えが変化するときがある。表層しか見ない人はそれを変節だというのだろう。

すべての意見が一致するわけではないが、彼の問題指摘は重要な刺激なので、これから追いかけていきたい。