作曲年・楽器編成・演奏時間

2017年12月8日の北九州市黒崎ひびしんホールでの「音の杜—ダンス音楽の祭典」のために作曲。

楽器編成はソプラノ2名、フルート1名、バスーン1名、チェロ1名、マリンバ1名、ピアノ1名、打楽器1名の計8名の奏者で演奏される。このやや特殊な編成は「音の杜の会」出演メンバーすべてによる編成である。

演奏時間は第1曲2分20秒、第2曲1分30秒、第3曲1分35秒で、全体では曲間の休みを入れて6分ほど。

作曲のキッカケ

音楽家集団「音の杜の会」は北九州在の音楽家グループで、もとは懇親のため集まりであったが2015年にメンバーの楽器編成に合わせた楽曲で演奏会を催した。それがたいへん素晴らしい演奏会で、メンバーも充実感を得て、それ以降、年に1回、テーマを設けてメンバー全員が参加して演奏会をすることになった。

昨年、私はその演奏会の構成と演出について相談を受け、ついでにメンバー全員で演奏できる音楽をプレゼントした。「不思議の森のアリス」というタイトルの演奏会で、《アリスと踊ろう》と題する曲を書いた。演奏後に予想外の客席からの大勢のブラボーの声をいっぱいいただき、こうしたことは日本でのはじめての経験で、幸せな思いをさせていただいた。

今年もお誘いいただき、今年の「音の杜の会」のテーマであるあるダンス音楽を作曲させていただくことになった。

ダンス音楽ということで私がすぐにひらめいたのが2013年にラオス・ビエンチャン郊外で聴いたダンサーン村の少年少女合奏団の演奏である。国立ビエンチャン音楽学校のカムスアン教授が指導する合奏団で、小学生高学年から中学生までの少年少女たちがラオスの民謡や童謡や流行歌を民族楽器でみごとに演奏する。それらの多くはダンスを伴っている。私はその音楽とダンスの美しさと楽しさに感激をした。今でもその時に撮影したビデオを頻繁に見ているほどだ。

ダンサーン村少年少女合奏団の音楽にインスパイヤされた作品をつくることが実は最初期のアイデアであった。しかし彼らの音楽はラオスの民族楽器でなければ表現できないものである。結局はインスパイヤされたものの、できあがった音楽はダンサーン村少年少女合奏団の音楽とはまったくの別物になった。

山の民

《ラオ・ラオ・ラオ!〜山の民の3つのダンス》のラオとはラオスのことである。ただし国名を示すよりも言葉とか民族、伝統、文化を指す。「ラオスの‥‥」という意味に近い。山の民とはラオスの人々のことだが、ラオスは多民族国家で実態は様々であり、ラオスの主要民族のラオ族だけでなく、ラオスに住む様々な民族、とりわけ山地に住む人々を指す。

じつはラオスは私の長女が孫娘を連れて2年間単身赴任していたところである。その間に私は何度かラオスを訪れた。孫娘が地元の幼稚園に通っていたり、ベビーシッターやドライバーが地元の人であったりして、ラオスの人々に親しみがある。ラオスの人々は全般的に素朴で穏やかな、控えめで礼儀正しい印象を持っている。

曲目解説 第1曲

この曲はラオスの歌「チャンパー・ムアンラオ(Champa muanglao/ラオスの花チャンパー)による変奏曲である。

ただし主題提示はなく、2つの変奏から成り立っている。その変奏も主題旋律の変奏ではなく、主題はそのままでそこに装飾的に絡む副声部のあり方の変化によって変奏がなされている。

歌詞はラオス語のオリジナルをそのまま使っている。ただし3番目の歌詞は省略している。ラオス語に関する情報は少なく、演奏者は歌のパートにおける発音については下記参考音源を視聴して、それを自分なりに模倣してほしい。

チャンパー・ムアンラオは日本の「さくらさくら」に相当する準国歌のようなもので、ラオスを代表する歌である。チャンパーはプリメリアのことでありラオスの国花である。3歳の孫娘が幼稚園で聞き覚えてこれを歌っていているほどにラオスでもっとも親しまれている歌である。(孫娘はラオスでこの歌を踊りながら歌っていたが、今や完全に忘れている。子供は暗記も忘却もきわめて速い。)

歌詞の大意は以下のようになる。
(CD「ラオスの音楽」KING RECORED KICW 85096/7、千徳美穂「ライナーノーツ」より)

(1)
チャンパーの花よ、チャンパーの花をみていると
もっともっと見ていたくなる
心に浮かぶ 思い出せる 香りの高さを
庭の木を眺めていると 思い出す 昔々父が植えてくれたことを
寂しいとき 心を慰めてくれる
チャンパーの花よ いつもそばにいてくれる
わたしがまだ小さなこどもだったころから
(2)
あなたの香りは本当に大切
愛くるしい花 綺麗で 可愛い花よ
寂しいときも あなたの高い香りをかぐと
今は会えない昔の友に会ったような気持ちになる
あなたは花 綺麗な花 昔からずっと
チャンパーの花よ 誰もが愛するチャンパーの花 私たちの花
(3)
チャンパーの花よ ラオスの花よ
星の光のように美しい ラオスの人はみんなこの花がすき
ランサン王国に生まれた花
ラオスから遠く離れて外国に行っても
死んでもこの花を忘れない
チャンパーの花よ ラオスの国の花なのだから

曲目解説 第2曲

この曲は「モーラム」にインスピレーションを得た音楽である。モーラムはケーン(雅楽の笙によく似た楽器)を伴奏に即興的に歌を展開していく音楽で、祭りや個人的な行事(結婚式、誕生日祝い、葬式)などでよく演奏される。ラオスを代表する音楽ジャンルである。

インスピレーションを受けたのは構造に関してだけである。短い音型を延々と反復するケーンの伴奏パートの動的な音響テクスチュアと、ケーンの和音の持続音の上で声のパートが即興的に歌を紡いでいく音響テクスチュアとが交互に出現するという構造である。私の作品では声のパートは即興ではなく、また具体的な意味のあるテキストを持たないオノマトペであり、楽譜にきちんと書かれている。ただし指定された母音の発音は明確にするのではなく、いつも曖昧で、2種の母音間ではずらすように移り変わることが好ましい。例えばイ→エは明確にイエではなく、イーイゥーウェーエゥーィエーエなどのように移り変わる。

曲目解説 第3曲

ラオス的な5音音階に基づいて作った私のオリジナル旋律による変奏曲である。変奏は各声部が装飾をどんどんと付加してくことでことでなされる。変奏が進むにつれてポリフォニックに聞こえる度合いが増していく。(ポリフォニックとは云うものの、実際にはヘテロフォニックである。)

歌詞は私のオリジナルで、先に作った旋律にそれに会う適当な語(山、森、河というラオスを構成してる自然)を並べていったものである。

星降る 山かげ
河凪ぎ 森の中
光を 映して
輝く 朝
花を 咲かせて
美しい 花