ES-13
《ハヌマーンの愉快ないたずら》マリンバ独奏のための4つの音詩
Hanuman’s Merry Pranks Four Tone Poems for Marimba solo
- 【演奏時間】10【作曲】2007.3【初演】2007.7.21, 福岡市あいれふホール, 西洋楽器が奏でるラーマヤナの世界~中村滋延新作室内楽の夕べ, 田代佳代子【再演】2013.11.1,北九州芸術劇場小劇場,島田亜紀子マリンバコンサート【出版】マザーアースN1012FR
タイトルについて
ハヌマーンはインド起源の叙事詩「ラーマヤナ」に登場する白猿です。西遊記の孫悟空のモデルとなった猿で、空を飛び、体の大きさを自在に変え、いろいろなものに化けることができます。主人公のラーマ王子の家来(というよりラーマ軍の将軍の一人)として獅子奮迅の活躍をします。ラーマヤナを題材とした芸能が民衆に親しまれているインドや東南アジアでは非常に人気のあるキャラクターで、タイのテレビ番組での「ウルトラマン」はハヌマーンがウルトラマンとして活躍し、子どもたちのアイドルにもなっています。
ハヌマーンが人気のある理由はそのラーマ王子の家来としての勇猛果敢な活躍ぶりだけではなく、コミカルて愛すべきキャラクターであることも理由です。おっちょこちょいで、いたずら好きで、時々滑稽なミスをし、好色でしばしば女性に惚れ込んでしまったりします。しかし義理堅く、義のためには我が身の危険を顧みず敵に突進し、果敢に戦い、勝利します。
この曲はそうしたハヌマーンのイメージに想を得た作品です。ハヌマーンのその時々の動きを自由に音楽化したものです。ただし物語を音楽化した標題音楽ではありません。
なお,ハヌマーンをモチーフにした作品としては2006年に作曲した《ハヌマーン,汝の勇気を褒め称えよ》4人の打楽器奏者のための音詩/Hanuman, your courage deserve praise: Tone poem for four percussion players があります。
作曲の契機
2007年に室内楽作品の個展を福岡で開催した際に作曲しました。その個展は「西洋楽器が奏でるラーマヤナの世界」と題して、ラーマヤナに想を得た作品ばかりによるコンサートです。2001年に福岡に居を移してからアジアが近くなり、妻と二人で何度か訪れたカンボジアでたまたま鑑賞したラーマヤナによる伝統影絵劇スバエクトムや舞踊劇リアムケーや、そしてラーマヤナをモチーフにしたアンコールワットの回廊のレリーフを見てラーマヤナの世界に魅せられ、その内容に興味を抱き、それをモチーフにした作品を2002年から2015年くらいまで作り続けてきました。
構成・構造
中ー急ー緩ー急の4つの楽章からなります。
第1楽章 Allegretto、A(1-11小節)-B(12-35小節)-A'(36-63小節)の3つの部分から成ります。AとA’の基礎モチーフは譜例1a。その中の変ホ音がホ音に変わりBに入り、ホ音がBの核音になります(譜例1b)。Bは核音ホの反復をメインの音楽事象として構成されています。A’は基礎モチーフが音符の単位を変え、移調されて、様々に変奏されて現れます。
落ち着いた気分の状態のハヌマーンを表しています。しかし突然エキセントリックに暴れ出したりします。
第2楽章 Allegro scherzando、A(1-21小節)-B(22-37小節)-B'(38-60小節)-A'(61-85小節)の4つの部分から成ります。Aの基礎モチーフ(譜例2a)は5つの断片モチーフから成り、それらが組み合わせを変えることで音楽が展開されていきます。Bは同音反復の伴奏の上に譜例2bの音列(イ短調)による旋律線が現れます。B’は一見するとBとは無関係のようですが、Bの同音反復伴奏音型の変奏です。
敵の軍勢の中に一人で切り込んで暴れまくり、跳んだり跳ねたりして敵を攪乱する様子をイメージしています。
第3楽章はAdagioはA(1-10小節)ーB(9-24小節)-A'(25-32小節)-B'(33-36小節)の4つの部分から成ります。Aは3声部のコラール、Bは下行音階進行を中心に構成されています(譜例3)。実際には四分音符1つの長さに分断されて下行音階進行音型は現れるところが多い。
ハヌマーンの惚れっぽくて好色な面を表しています。AとA’のコラールは好きな女性をうっとりと思い浮かべる場面、BとB’は女性にエモーショナルにアプローチする様子をイメージしています。
第4楽章はPresto con animaで一貫して急速なテンポで音楽が進行します。A(1ー40小節)-B(41ー68小節)-A'(69-90小節)-C(91-107小節)-B'(108-140小節)-A”(141-176小節)の変形ロンド形式。Aはイ短調のVの和音で開始される。Bは12音音列の主題が7回繰り返され、他声部にイ短調的な音の点の動きが絡みます。B’後半の120ー131小節は単声部の譜表に書かれている箇所も12音列主題の繰り返しに多声部の点の動きが絡むことについては変わりません。
ハヌマーンがラーマの信頼を勝ち取り、自信をも得て、快活に作戦や戦闘に参加している様子をイメージしています。