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《デジャヴュ(déjà vu)》ピアノ独奏のための
déjà vu for Piano solo

  • 【演奏時間】13分【委嘱】佐藤ローデン千恵【作曲】1999.10【初演】2000.5, 東京オペラシティ小ホール, 佐藤ローデン千恵「音を紡ぐ」コンサートシリーズ第1回【再演】2001.10, 横浜みなとみらいホール, ISCM World Music Days 2001 in Yokohama(国際現代音楽協会), 林達也

この作品の作曲時、いろいろと理不尽な事件に巻き込まれ、生活の不安さえ感じていた時期であった。つまり収入が途絶えるのではないかという状況にも追い込まれていたのである。毎日、怒りと絶望にかられていた。それも単に個人的なミスから発したものではなく、正義が不当に圧迫されているとしか思えない類いのものだった。私はそれなりに戦ったつもりだ。

その折りに旧知のアメリカ在住のピアニストのローデン知恵さんから委嘱を受けた。ローデンさんは私の全音階的な音群的音楽と、それを実現するために創造的解釈を要求する記譜法、つまり細部を演奏者の自由裁量に委ねた音楽に関心を持ってくださっていて、委嘱をくださったようだ。しかし私は「きれいな音楽」「親しみやすい音楽」を書く気がせず、自分のやり場のない怒りや絶望や攻撃の感情を表出するような作品をつくりたいと思った。また、それを演奏者にストレートに表現してもらうために定量性を期待して伝統的記譜法を用いることになった。

この曲はほとんど設計図を書かずに毎日少しづつ音を置いていった。設計図がない場合、無意識にこれまでの音楽体験に、つまり“思い出”に頼ってしまうところがある。この曲ではそのことを敢えて「よし」とした。deja vuというタイトルはこれまでの私の音楽体験(正確には作曲経験)が曲を形成する主要要素となっているところから名付けた。

全体は13の部分から成る。個々の部分は相互に際立った性格を示していて、部分個々を認識できる。現代音楽に馴染みにある聴衆はその性格が過去のどの音楽に基づくものであるかもある程度は把握出来るのではないかと思う。それはメシアンであり、クセナキスであり、ブーレーズであり、シュトックハウゼンである。曲中にベートーヴェンの熱情ソナタの第1楽章のモチーフが所々に顔を出すが、途中まではそのことに私自身は気付かなかった。知らずのうちに“思い出”が顔を出したのであろう。

この曲を書いて初演したことで私の怒りと絶望はかなり軽くなった。