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《ソナタ1991》ピアノのための(旧タイトル《ピアノソナタ第1番》)
Sonata 1991 for Piano
- 【演奏時間】11分【委嘱】蛭多令子【作曲】1991【初演】1991.9.14,京都府立府民ホールアルティ,蛭多令子【再演】2006.6.17,あいれふホール,MUSICA VIVA,山本佳代子
基礎情報
1991年に蛯田令子さんの委嘱の受け作曲。彼女によって京都で初演,その後すぐに東京で再演された。初演時は「ピアノソナタ第1番」のタイトルだったが。2017年の楽譜の浄書作業にあたって細部を整理改訂した際,タイトルを「ピアノのためのソナタ1991」と変更した。
この作品には楽章はひとつしかなく,古典的なピアノソナタの外形とは縁がない。それでもピアノソナタと名付けたのは,小品ではなく,物語や特定の雰囲気描写を意図した標題音楽でもない,いわゆる規模の大きめの「絶対音楽としてのピアノ曲」という意味においてである。
ピアノという楽器の持つさまざまな表現様式をひとつの作品の中に盛り込み,まさにピアノの多様な音の世界を現出させることを意図して作曲した。表現様式としてはバッハ,シューマン,ショパン,ドビュッシー,プロコフィエフ,メシアンなどが盛り込まれている。もちろん音高構造は以上の表現様式本来のものとは一致しない。
作曲・初演後,その多様式性ゆえにこの曲への私自身の評価が低かった。しかし最近の私の作品がより多様式なものになってきており,また現在の音楽状況として歴史的な音楽様式を含めて様々な様式が等価があることを意識するようにもなってきた。だからこの曲における多様式性はある種の必然と感じている。
構成・構造
この作品は5つの部分から成る。
- 第1部はPoco Adagio(ゆるやかに)
- 第2部はLentamente(遅く)
- 第3部はAllegro deciso(速く、決然と)
- 第4部はGrave(重々しく)
- 第5部はAllegro molto(非常に速く)
第1部は持続音(h,c,desによる重音、aの単音、この2種類の持続音)に半音隣接関係にある様々な音高が絡む。線と点の対比が中心になっている。非常に速いアルペジオ風上下行音群が単調さを破るために時々挿入される。
第2部はショパン風のノクターンがモデルになっている。左手の伴奏音型はノクターンそのもののつもりである。右手のゆったりとしたメロディの32分音符による音型は主旋律を彩る装飾音群である。
第3部はスタッカートの同音反復を主要素とする一種のトッカータである。同音反復を持続音的に捉えると、それに半音隣接関係にある様々な音高が絡むという構造は第1部と共通する。第3部の中間部分は同音反復が持続音に置き換わる。
第4部は8分音符の重厚な伴奏音型の上に副声部からなる旋律が歌われる。外見は単調に思えるかも知れないが、きわめてエモーショナルな部分である。
第5部はプロコフィエフの急速なピアノ曲がモデルになっている。この部分自体が簡略されたロンド形式に基礎にして構成されている。