2012年5月12日に初演された《九大百年祝典序曲》が九大フィルハーモニーの特別演奏会(2018年8月18日、東京サントリーホール大ホール)においても鈴木優人の指揮によって再演された。以下は初演時の楽曲解説に若干の手を加えたものである。

2012年5月26日、アクロス福岡シンフォニーホールでの「九州大学創立百周年記念コンサート」において、私の作曲による《九大百年祝典序曲》が荒谷俊治指揮の九大フィルハーモニー・オーケストラによって公開初演された。実際の初演はその2週間前、5月12日の九州大学50周年記念講堂での「九州大学創立百周年記念式典」での同一の指揮者演奏団体による。実は2011年こそが百周年にあたっていたのだが、東日本大震災の甚大な被害に配慮して、式典そのものを1年遅らせた経緯がある。

2003年、私が所属していた九州芸術工科大学は、九州大学と統合した。そのことで九州大学は旧帝国大学の流れを引く日本の7つの総合大学の中で、唯一複数の芸術家を要する学部を持つようになった。この特徴を活かして、他の総合大学では真似の出来ないこと、つまり大学に所属する活躍中の作曲家が創立百周年記念式典のための音楽を作曲することになったのである。

ブラームスに《大学祝典序曲》という名曲がある。彼が名誉博士号を授与されたことに感謝の意を込めてある大学のために作曲したもので、当時の学生歌がちりばめられた親しみやすい曲である。親しみやすいだけでなく、学生歌を主題とした高度な作曲技法による非常に巧みな構成の音楽である。

このブラームスの曲に刺激を受けて、福岡ゆかりの「黒田節」や「どんたく囃子」、また九州大学の学生歌「松原に」や応援歌「九州大学応援歌」、伊都キャンパスイメージソング「愛し伊都の国」などの旋律を私は《九大百年祝典序曲》にもちりばめることにした。ただしこれらの旋律が単なるメドレーを構成するのではなく、首尾一貫した音楽的持続の中で出現し、展開していくように工夫した。そして何よりも祝典序曲として、明るく力強い曲想をめざして作曲した。重要部分の楽譜のPDFが下記のところにあるので、参照されたい。以下の解説はその楽譜に基づいている。九大百年祝典序曲スコア抜粋(PDF)

第1部(A1)は特徴的な序奏に続いて九州大学学生の明るい前向きな学生生活を象徴するような速いテンポの音楽が演奏される。(pp.3-5)

第2部(B)はゆっくりしたテンポで「黒田節」をもとにした旋律が流れる。九州福岡の文化都市としての雰囲気の一端を提示する。(pp.8-9)

第3部(A2)はふたたび速いテンポで、序奏に続いて学生生活の自由な生活、若さゆえに許される奔放な雰囲気を描く。(p.15)

第4部(C)は「どんたく囃子」が登場する。最初はゆっくりしたテンポで、主旋律に対して非常に技巧的な副旋律が絡む(p.19)。自身では作曲技法の腕の見せ所と思っている。その後、速いテンポで「どんたく囃子」が演奏され、

第5部(A3)に流れ込む。ここでは九州大学学生歌「松原に」が序奏モチーフのくり返しの中に金管楽器によって突如浮かび上がって朗々と歌い上げられる(pp.27-28)。「松原に」は、その後、木管楽器によって技巧的に装飾変奏される。

第6部(D)ここでは昨年3月に発表された伊都キャンパスイメージソング「愛し伊都の国 -嚶鳴天空広場の歌-」をモチーフにした静かな音楽が演奏される。(pp.35-36)

第7部(A4)は第1部とほとんど同じ伴奏が演奏されるが、それに乗って演奏される主旋律は「九州大学応援歌」。続いてその応援歌のモチーフによる音楽が盛り上がりをみせて全合奏の中で華々しく終わる。(pp.44-45)